(第四部)
翌日、新聞を見ると車を使った重大事件を控えての検問だったのですが、も
し通常の不審者を目的とした検問だったらどうだったろうか?
「それじゃ〜、お気をつけて・・・」じゃすまなかったかもしれません。よ
く逃走に女装したり、女装でよからぬ事をする人だっているじゃないですか。
「どこに行くのか?」とか「ご用事は?」とか聞かれたらどうしようとまた
不安になりました。
(それでは私がお答えいたしましょう。)
免許証に記載している事実は本人と違っているわけではないので、まず免許
証の提示を求めらられば、素直に提示しましょう。車を運転中は免許証は携
帯の義務がありますから、必ず携帯します。バレないようにする隠したり、
不携帯だったり、不審な行動は絶対にいけません。
まず携帯の確認がおわりますと、職務の核心にはいります。(今回は重大事
件の犯人探しだった訳ですが)それが不審者の検問だったり、飲酒検問だっ
たり、シ−トベルトだったり、不審貨物だったりするわけです。目的が非常
に狭く、通常は目的外の検問はいたしません。ただ挙動不審者は別扱いをい
たします。
それに対応する仕方は、真実を素直に伝えることです。決して事実に反する
事、例えば、免許証を持っていながら「忘れた」とか「今、仕事に行く途中
だ」とかは絶対にいけません。
素直に「趣味で女装してます」の一言で全て解決いたします。このチャンス
がありましたらぜひ確かめてみてください。
[例その31]
次は突然の車のトラブルです。ある日電話で、
「あの〜、今困っているんです」
「どうしたんですか?」
「タイヤがパンクして、取り替えできないんです」
「簡単じゃないですか、接地のまま少しボルトを緩めて、それからジャッキ
アップして・・・」
「・・・???・・・」
「わかりますか?」
「わかりません。とりあえず来て・・・」
(もう〜、しょうがねェなぁ〜)
「どこなん?」
「長堀の駐車場の中・・・・・」
詳細を聞いて場所の特定は出来ました。急いで行ってみると駐車している車
の前に立っていました。
「スペァ−タイヤは・・・」
「多分、このトランクの中・・・」
ありました、臨時のスペァ−タイヤが・・・大丈夫のようです。早速作業を
始めました。何度もやった手馴れた作業ですので、5分10分あれば十分で
す。チャッチャカチャの−チャで出来あがり。
「それじゃ、これで私は帰ります」
時間的な作業量はたいした事はありませんが、ここまで来るロスタイムの方
がもったいない。
「ありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして・・・」
半分は「ムッ・・」としながら(こんくらいは車持ってんだったらやれよ!)
(女装してるんだったらしょうがないか)考えこんでしまいました。とりあ
えずは問題が解決したのですから、良しとしなければいけないのかなとそれ
を押さえました。
[例その32]
車に関してのトラブルとしてはよくあるパタ−ンなのですが、これも防ぐ手
段がありますので、例として先に書いてみます。
その日は良く晴れた日でした。場所は京都の桃山城。一応は見学しながら、
写真を撮りながら、ゆっくりと駐車場にもどりました。
やれやれ、自分の車に戻ればホッとします。後はもう帰るだけ・・・・・・。
ポケットの中のキ−を捜しました。
「あれッ??、ない・・・」
(車の中を見ました・・・あれ・・・ついている・・・)
「ドキッ・・・」
車を持っている人は必ずは体験したことのある事なんですが、それも忙しい
時に限ってそんなヘマをする。
戸は必ずキ−で閉めるのが原則なんですが・・・。中々面倒なものです。
最も近頃はキ−を持って離れればロックが自動的にかかったり、お迎えのラ
イトをつけてロックを解除したりする車。いや、カ−といった方がいいので
しようか。そんな便利なのもありますが・・・。
そろそろ駐車場も閉門間際、車も後5台くらいしかありません。
しからずんば、奥の手の財布の中のスペァ−キ−を・・・。そこまでは冷静
でした。
「あら、どこに行ったのだろう。ないッ」
(ない、ない、ない、ない、どこにもない。)
どうも出掛けに財布の中身の小銭を整理するついでに、スペァ−キ−を机に
出した記憶がある。もしかしたら他の場所に入れたのかもしれない。財布の
中身を全部出してみましょう。
(やはり、ない・・・・)
どうしょう。
カギ・鍵・かぎ・・・・こんなに慎重に準備してあるのにもかかわらず、ス
ペァ−キ−なんぞ、ほとんどいつもは役立たずで邪魔なだけなのに、本番の
時に役に立たなくて、どうしょうもない。
事は重大です。帰れないかもしれない・・・と頭を過りました。
スペァ−キ−の本体は会社の置いてありますが、それを取りにかえれば駐車
場は確実に閉まってしまいます。JAFを呼ぶしかないか・・・。
私は駐車場の管理事務所を訪ねました。閉門前のあわただしさが伝わってき
ました。
「すみません。車の中にカギ入れたまま戸閉めちゃったんで・・・」
「しょうがないな〜」
「JAF呼んでください」
「電話番号、こちらではわかりません」
「電話どこにあります?」
「入場口の所です・・・、だれか前そんな事で開けたことあったな〜」
「誰ですか?」
「中の人ですが、入場口で聞いたらわかるかもしれません」
早速、駆けるように入場口のほうに行きました。
「すみません、電話はどこにあります」
「そこです・・・」
すぐ横の方にありました、(いや〜気が動転している)と我ながら思いま
した。
「あの、電話番号簿は・・・・」
「そこについています」
ありました、ありました。急いで手に取りましたが、項目が何で検索すれ
ばいいのかわかりません。それに字が小さくてわかりません。ほとんどギ
ブアップの状態です。
「すみません。実は車にキ−を入れたままにしたもんで・・・」
「そうですか・・・」
「さっき、駐車場の管理事務所で聞いたのですが、だれか開けてくれる人
がいると聞いたのですが・・・・」
「・・・・・・・」
「いませんかね〜・・・」
「そう言えば、そんな事あったネ」入場券売り場の中で話しています。脈
ありです。
「少し待ってください、聞いてみます」
一人が急いで出ていきました。
しばらくして、戻ってきました。
「出きるかどうかわかりませんが、してみようと言っていました。ただ今
終わりの準備が忙しくって手が離せないと言っていました。しばらくお待
ちください」
天声を聞いたようにも思いました。
凄い長い時間待ったように思いました。でも本当はそんなには待っていな
かったと思います。
向こうの方から若い男性がやってきました。この広い駐車場も残りは二台
だけになりました。心細いところに天使が舞い降りたように、光明が辺り
を照らし出しました。
「どれどれ・・・、本当だ・・・少し待っていてください。ちょっと道具
を持ってきますので」
と言い残して、またもこの場に取り残されました。
しばらくして、一つは針金の太い先が曲がったヤツとブリキの折れ曲がっ
た何とも知れないものを持ってきました。
「原理は簡単なんですよ。ロックがかかっているのを引き上げることで解
除する事ができるんです・・・。チョット待っていてください」
彼はその太い針金のようなものを戸の隙間にむりやり突き込んでガチャガ
チャと引っ張っています。
「これではうまくいかない・・・」
こんどはペタンコになったブリキの折れ曲がったものを突き込んでやって
います。今度は少し手応えがあるようです。
「コッン・・」
あっけなく、ロックが外れました。
最後の一台の駐車している車が出ていきました。
あぁ〜、終わった。本当にありがとうございました。ひそかに包んでいた
ものをお礼にと渡そうとしたのですが、彼はそれを受け取らずにサッサと
その場を立ち去ってしまいました。
ガランとした駐車場をその場で大きくタ−ンして、管理事務所にお礼を言
って出ました。
「あ〜ぁ、疲れた。さあ帰ろッ〜と」
車を運転する時の必要なものの点検、運転免許証・お金・スペァ−キ−を
必ず準備する事をおわすれなく。今回のような悲惨な例もありますので、
さらに細心の注意を・・・。特に女装の時は・・・特に特に・・・。
あまりに楽しくなかったので次ぎは半分は気分が悪く、後半はアア〜スッ
キリのおまけのお話しを書いてみましょう。
[例その33]
大阪と奈良を結ぶ阪奈道路の峠辺りから、生駒山上遊園地から帝釈天まで
をの山嶺を通る見晴の良い道路があります。一応は有料道路ですので車の
通行は少ないのですが、大阪平野が長いこと一望できて緑も多く、いいと
ころです。大阪の街からも見えるパラボナの電波塔が見える脇を通ります。
その塔を越えて1キロほど来た時です。私は緑を満喫しながら車を走らせ
ていました。
(ややァ〜、おまわりさん?!???・・・)
こんな山奥で何してんのかナ・・・。と思ったときです。こちらの方へと
手招きしています。
(何!!!。ネズミトリ・・・。こんなところで・・・)
(ウッソ〜!。体感からしても、私は過激な運転はしておりません。制限
時速は40キロは知っていましたが、違反していない自信はありました)
「免許証を・・・」
「はい・・・」
「こちらに来てください・・・」
「????」
私は簡単な折りたたみ椅子に座らせられました。
「12キロオ−バ−です」
「えェッ〜」
私はあきれ返りました。こんな山の中で12キロオ−バ−。しかも県境の辺
鄙な所。スピ−ド違反を取り締まる保護主体はだれなのか?
「こんな有料道路で、こんなに車が少ない所で取り締まりの効果はあるの
ですか?そりゃあ、猛スピ−ドで走るのは別ですけれど・・・」
違反者を作るためのどう見てもそれしか考えられません。この道路は40キ
ロとは言え、逆に体感からして40キロは不自然な速度です。しかも若干下
り方向に向かう平坦な場所に取りつけています。
次ぎにくる車も、その次ぎも100%アウトです。犯罪の抑止効果どころか、
犯罪を発生させる効果しかありません。皆、緑陰を楽しみに来た家族や恋
人たちです。
彼らも仕事・・・言ってもしょうがないとは思っても・・ついつい言って
しまいます。彼らも反論もしません。
事を淡々と終わらせて、全て銀行で終わらせばいいだけです。そう考えな
ければやっていけません。
女装の人たちは車から一歩も出ずに待っていました。
「すいません。12キロオ−バ−なんですって・・・。こんなところでネ〜
びっくりしました。こんな取り締まり初めてなんで、免許とって30ウン年
ですが本当に驚いています。緑が泣いていますヨ。せっかくの山が・・・」
その日の目的は帝釈天の参詣だったのですが、よく覚えておりません。
その帰りのことです。
大阪がよく見える高台で一休み・・・。それは大阪がきれいに一望できる
場所でした。よく晴れてもいましたし、気分も次第に晴れてきました。
一あたり見渡して、大阪を吸い込んで、その高台を後に下りはじめると	
「悪い、小便に行って来るわ」
「はい、どうぞ」
彼(女)はさっきの道を登って行きます。
しばらくして、帰ってきました。
「ああ、気持ち良かった・・!」
(・・・・・・)
「ピンクのプリ−ツスカ−ト捲り上げて、立ち小便をしてきた」
「ムムム・・・」
「大阪の街に向かって、気持ち良かった」
私は十二分に理解できました。秀吉と家康が二人で小便をしながら江戸行
を決めた豪快な話をおもいだしました。あれとは違うけれども何かスケ−
ルの大きな豪快さを感じました。
(大阪に向かって・・・ああ気持ちいいだろう!)
私もやりたかった。
「いや〜。それって猥褻物陳列罪になるとちゃう?」
そりゃ双眼鏡で見てりゃ、凄いもんになるでしょう。勿論なりますとも・
・・。それとも大阪を侮辱した罪で十里四方、ところ払いでしょうか。
でも心境としては私も同道して・・・やっちゃいますよネ。
それでもプリ−ツスカ−トには同じ並んでは勝ち目はありません。やはり
行かなくてよかった。これを読んでるあなた・・・どうします?
先にネズミトリに遭った場所を、猥褻物陳列罪やとか、十里四方ところ払
いだとか車の中は大賑わい。もうやってはいなかったものの、くすんだ緑
を元の緑に取り戻せることができました。いや〜凄く楽しかった。ホント。
ついでのついでで阪奈道路と車で思い出しましたのでついでで書いてしま
いますが、今度は少し恐いお話しです。
気分的には女装は都合の良い時は女。都合が悪くなると男。の顕著な例は
女装者の夜道の行動です。ほとんどの女装者が外出を夜間を利用して外出
します。しかも「暗い夜道」を選んで初体験をしたりします。「暗い夜道」
と聞いて、ハハ〜ンと来た人はまさにそれなんです。
[例その34]
大阪と奈良を結ぶ重要な道路に阪奈道路があります。この道路昼間はかなり
の交通量がありますが、夜間はカ−ブのキツイせいか交通量は激減します。
一度でいいから女装で歩いてみたいと思っていましたので、あそこ、ここと
場所を物色していました。いつまでたっても決まらないので、もうどこでも
いいと思っていました。
車で出かけて、簡単にメ−クして奈良の方に向かいました。峠を越えるとや
や広めのユッタリとした道になります。時は深夜。だれもいません。
そこに車を止めてっと・・・。
ドァ−を開けると別世界。今、私は女なんだと心に言い聞かせて外に出まし
た。空気が新鮮。でも歩きつらい。
暫く歩いていくうちに段々楽になってきました。もう今日は十分満足したし
いい思いでも出来たし、楽しかった。
知らないうちにそばに車が来ていました。ドァ−がス−ッと開いて中から男
の手が先に出てきて、アッという間に私の首に絡みついてきたのです。
瞬間的に車の中に引っぱり込まれました、私はどうしょうもありません。
「あれ・・・。なんじゃ?。オカマ・・・?!」
「これは・・・。いらん・・・」
急に車から放り出されました。そのまま車は急加速して奈良の方に立ち去り
ました。
とりあえずは早く車に戻って、もうそのことで頭の中は一杯でした。
・・・このケ−スは犯人が女装者と確認したから大事件にはならなかったの
ですが、暗い夜道は後ろから羽交い締めにしたり、突然、凶器をつかったり
のケ−スも想定されます。女性は絶対と言っていいくらい「暗い夜道」は歩
きません。ところが女装者は好んで「暗い夜道」を歩きます。気持ちは男性
で格好は女性のチグハグさが犯罪を誘引してしまうのです。
女性の夜の一人歩きは不自然で、危険に満ちています。どうしても歩かなけ
ればならない時は、出きるだけ明るいところ、人通りの多いところを歩きま
しょう。
よく夜間歩いた話しを聞きますが頭の中は男性であるかきり、夜道はこわく
ないし、トイレの心配もないわけです。女装するがぎりでは女性の社会的な
性による差別を体験することを拒否もできるのですから、いいとこ取りをで
きるわけです。よくよく聞いてみるといいところだけをつまみ食いしている
といわれてもしかたがないように思われます。
ついでと言えばついでの話しでもう一件・・・ス−パ−マン事件を・・・・。
[例その35]
昔の話しですが、ある日、彼が「今日おもしろいことがあった」と話し始め
ました。
「どんなこと、どんなこと・・・」
「いや〜、今映画来てるやろ。ス−パ−マンあれ見て来たねん」
「それで・・・」
「前から、見たかったんやけど、チャンスがなくて・・・、今日女装してる
やろ。それで、こりゃ〜、一挙両得やと思って、行ってきたのや」
「おもしろかった?」
「うんにゃ。ようわからんやった」
「なぜ?」
「私が一人で入って見ていると、隣に座る男がいるねん。他も空いてるのに
とか思いながら、まぁ、ほっとこぅ〜と思ってそのまま座って見ていた」
と前置きして話し始めました。
しばらくすると何故か、こちらの腕によりかかるように感じて、ちょっと引
っ込めはしたのしたのですが、さらに寄りかかってくる。すこし寝ているよ
うな気配もある。まぁ寝たいのなら寝るがいいさ。でもちょっと重い・・・。
しばらくそのうっとうしい気分のままその状態が続きました。
突然。その人の指を右脇に感じました。ブラジャ−の脇線に伝わって胸によ
じ登ってきました。
「えへへ〜。私のはシリコンの胸。わからんのかナ〜」
最初は「ドキ〜・・・」としたものの、人工乳房じゃ感覚も違うじゃないか
ネ・・・。
チラッと横を見るともなく見てみると、腕を組んだまま「狸眠り」している。
演技もご苦労さん。なんだか黙っているとさらに触ってくる。
何だったら、外に出してやるからそれを触っていてくれてもいいんですけれ
ど・・・。とりあえずは私は映画を見たい。
かなり長い間それを繰り返していました。
上の方はそのうち飽きたのか。今度はスカ−トの下に手を回して来た。これ
はマズイ。キツクはねのけて完全防御の意思表示をしました。
映画がとりあえず、終わってた。
何見ていたのかわからなかった。急いで横も見ず立ちあがって出口に向かい
ました。後ろから追ってくる気配。
映画館を出てもまだ、追ってきます。
追ってこれないところ・・・。
「ああ、女子トイレ・・・」
一番近くの女子トイレに逃げ込みました。
------------------------------------
「あんなに、長い間触っていたのに、全然わからなかったみたい」
「ほんとかなぁ〜」
「ほんとに触っていたんやてェ・・・ホンマ」
「映画館でしかもス−パ−マン。のジャジャジャ〜ンのバックシ−ンミュ−ジ
ックで全然あわないヤン、よう、そんなところでやるわ」
「考えられへん」
「痴漢ってどこだって、いいのかな〜」
「最初から、ス−パ−マンで痴漢しょうと思って、映画見に来たのかな〜。考
えられへん」
「映画館の中に入って、まずそんな事考えんよな〜」
「だって、映画見に来よったんやろ、ようわからんわ」
「その、男もなに見たのか、わからんとちゃうのか」
「私もようわからんやったんで、今度もう一回、男で行き直ししなけりゃな
らんし、なんか損したみたい」
「男ってほんとしょうがないナ」
「女の人って、もう男恐怖症になる気持ちってわからんでもないナ。そんな
んでいいわけないだろ!」
話しがかなり脱線いたしましたが、また元にもどります。
今度は前にも触れました。大阪という立地条件の有利さを生かして神社仏閣
を行ってみようと思いました。訪問の範囲として京都・滋賀・奈良・兵庫等
がタ−ゲットとして考えられます。
まずは近くから・・・・。
[例その36]
箕面の滝をさらに上へ上へと行きますと、その峠の山越えた所の西国ニ十三
番札所・勝尾寺があります。
水子観音などで有名ではありますが、閉門間際に一人の女性が駆けるように
登って来てはお参りしている姿は、ものの哀れを誘うものがあります。
紫雲たなびく、静かな暮色の中で人に目立たぬ黒き洋服をまとい、そそくさ
と急ぐ影は、男性にはわからない涙を伏せた内にこもる強さ凄さがあります。
平常はそれは静かなのんびりとしたいいところです。あまり見るところもな
いので、正面の入山料のためか、人もすこぶるすくないのです。
そんなことですので五月のある晴れた日に行ってみました。いつもは石楠花
(シャクナゲ)は葉っぱばかりで目立たないのですが、正面参道の石段には
石楠花の大輪が歩く人の心をなごませます。だれもが「わぁ〜、きれい」と
近づいては写真を撮ったりしています。
その頃は、かなりの混雑が出ますがそんな石楠花の名所とは知らなかったの
でかまわず行ってしまったのです。
日曜日といいお天気が重なって、いつもの雰囲気がまったくありません。
私は後になり先になりして、撮影にいい場所をさがしてはポ−ズととっても
らって撮影します。首にはいつも数台のカメラをかけ、なりふりかまわず写
真を撮っています。
階段を2/3ほど行ったところのことでした。私は後になり先になり写真を撮
っていました。
先に行って写真を撮っていると、子供がその被写体をシゲシゲとみています。
お父さんとお母さんはただ黙々と階段を上がっています。この「ガキ」(と
通称は言います)はやたら元気で目障り、あっちに興味をもったかと思うと、
こちら、ついにはその被写体を下から見上げて、言いました。
「おじちゃん?おばちゃん?」
(ドッキンキン)
心臓が2回連続でなりました。
「・・・・・・・」
黙っていました。
三度目の心臓がき〜んとなる前に、子供はサッサとあきらめて階段をのぼっ
て行きました。子の親は子供の手を引抜くようにとって急ぎ足で、ドンドン
先に行ってしまいました。
子供はわかっていたのですネ。ということは大人はわかっていながら、知ら
ないふりをする。
写真どころでない深刻な雰囲気漂いました。ああ〜、こんな混んでいる場所
に連れてくるんではなかった。でもしょうがなかったかな。何か大イベント
のある場所は不向きなのがよくわかりました。特に子供は要注意!
[例その37]
特に注意と言えば、こんな事もありました。京都と言えば全国に名が知れて
いる観光地です。観光地で有名な金閣寺や清水寺は特に特に有名なお寺、そ
こには全国の中学や高校の修学旅行のメッカでもあります。
全国のみなさんは個人的にはあまり行った事のないところでも、このお寺に
関しては修学旅行で参拝した経験を持っているでしょう。
ここでお話しの対象になるのは、京都北山の山麓にある金閣寺での話しです。
私と女装者の密かな観光地(金閣寺)を参拝しておりました。駐車場は金閣
寺正面右にあります。結構観光バスも何台か入っておりました。普通乗用車
の寄場に置いて、正面に回りこみ入り口に拝観料をお支払いして、中に入り
ました。昔々中学の頃に行ったっきりで久しく来た事もないので、入り口の
小ささに「こんなものやったかな〜」と思い新たにしました。中にはいると
すぐ金閣寺の例のすました姿が目に入りました。それよりもビックリしたの
はまさに修学旅行の真っ只中に急に入った錯覚を受けました。
「マズイ」と思った瞬間、近くの男子生徒が目をそむけました。何故か男子
生徒は見て見知らぬフリをするのです。
「ちょっと、待っていてネ、今修学旅行の生徒で一杯だから少しして、写真
とりますから・・・」
と、少し休むふりをして待機いたしました。
修学旅行生は一番いい撮影場所に陣取り次ぎから次ぎへと友達をとっかえて
は写真を撮っています。ああそうだったな私も・・・・。
しばらくするとそれは静かな庭園にもどりました。本当に大雨の降った後の
ような静かなになりました。それでは写真を撮りましょう。そこいらで待機
していた他の観光客も同じように写真をとっています。場所はほとんど限ら
れていますので入れかわり立ちかわりと言う状態になります。
しばらくしますと、また入り口の方が騒動しいのです。「わぁわぁ、きゃぁ
きゃぁ」と声にもとれないような騒ぎが聞こえます。
(第二陣のご到着)これはマズイ!。早めの退散をと思っているうちにもう
こちらの方に姿が見えてきます。セ−ラ−スカ−トの紺の対女装アマゾネス
軍団が、もう直前で逃げられません。
先頭の高校生らしき女の子が真っ先に気がつきました。盛んに頭をかしげて
います。次ぎの娘はまだ気がついていないようです。次ぎ次ぎに入ってきま
す。どうも女子高校生の団体のようです。まさに天敵と遭遇したようです。
すでに一部ではヒソヒソ話しで聞こえてきます。
(これは、マズイ。早めの退散を・・・)
急ぎ金閣寺の横を通って裏手の方へ向かいました。南天の床柱なども早めに
見終わらせ、とりあえず先をいそぎました・・・が・・・・先を急げば前の
修学旅行の最後部が見えてきます。こんな何もない所でしょうがない、写真
もとれません。でも行きも帰りも出来ません。
それでも、待ち時間それほど長いものではありませんでした。
最後にお土産を買って、外にでました。ま、あまり大騒ぎにならないうちに
早く行動を起こせたものの、両方の真中に閉じ込められたら本当に悲惨な状
況だったかもしれません。
[例その38]
もともと、芸能・スポ−ツは苦手の私ですが、失敗談というか成功談という
か?そんな話しを・・・。
それは京都東映映画村の話しです。ここの映画村はよくテレビや映画の撮影
の現場として有名です。あちらこちらの四つ角のそれぞれに見覚えのある場
所が散見されます。よく船着場でチャンバラの場面などそのままです。
正面から入りますとすぐ左で撮影していました。同じ人が上着を着替えたり
手荷物を取り替えてはすぐ出ていきます。それとわかるカツラでもかまわず
出ていきます。本当にテレビや映画は良いのでしょうか。メ−クもかなり違
います。かなりおおざっぱなでもあまり影響はないようです。
写真の撮影場所はさすがそれ様にできているだけに無尽蔵にあります。どこ
に行っても感じるのですが、撮影をするのに絶好の条件を備えているのにも
関わらず、無粋な電信柱や電線・立看板・果ては一本だけ伸びきった痩せ細
った木。注意すれば避けられるいろいろな物は一切ないのです。もう一度写
真という観点から観光地を見直してみれば、かなりの改革が可能であるよう
におもいます。あまりにも進み過ぎて標準レンズでここに立って、と足型ま
であるのも味気ないですが・・・・。
そんなわけで、あちらこちらを「カチャ、カチャ」撮りまくっていました。
川に柳の脇はいつも使われている場所です。ここでも、一枚・・・。
ややっ?いつもと違う「スッキリ」感のある青年が着流しに両腕を通して走
って来ます。チャンス到来・・・・。
「チョット、チョット・・・」
「写真ですか?」
どっかで聞いた声?!
「お願いします」
「いいですよ・・・」
町の若衆は快く言ってくれました。さわやかな感じがします。
カメラを向けると、ポ−ズはバッチリ。私なんぞ、撮るバッカリで撮影され
る方に回ったことがほとんどないので、自分でもわかっていながら「ガチガ
チ」ポ−ズしかできません。それに比べてこの若衆、顔の傾け方・目線・口
元、あらゆるポジションの取り方がほぼ完璧なのです。
「おぬし、なかなかやるな・・・ヌフヌフヌフ・・・。カチャ・・。・・・
どうもありがとうございました」
「それでは・・・・」
と、彼は言い残して急ぎ足で立ち去りました。
しばらくして、
「三田 明?!」
「どれが・・・」
キョロキョロ辺りを見まわしましたが、だれもいません。
「いや、さっきの人・・・・?」
私は全然わからなかった・・・・おかしいな・・・と思っていても、芸能・
スポ−ツ音痴もかなり重症なもんでほとんどわかっていない。
それでも生活できる、モンネ。と負け惜しみをいつも言っていました。
「そうでしたか・・・。道理でポ−スがバッチリ決まっていたと思った」
「知らなかったんですか?」
「うんゥッ〜、まぁ・・・、そういうことですから・・・」
わけのわからない返答をして、お茶を濁しました。
私は「普通の兄ちゃん」だと思って気軽に話し掛け、彼も気軽に「いいです
よ」と応じてくれて、すごく爽やかな感じを残してくれたことを今も鮮明に
記憶しています。「スタ−」はやっぱり「スタ−」なのかな・・・。彼の若
かりし頃のプロマイドの記憶とあのポ−ズとその時の笑顔が忘れられません。
こんどはちょっと重くて、つらい話しをしましょう。はじめに書いておきま
すが、これは私が誰にも話さずにこれも棺桶まで持って行ってしまおうと思
っていた話しの一つです。だからちょっとツライのです。途中で書けなくな
ったらもうこの話しは誰にもいたしませんのでごめんなさい。書けましたら
いいと思います。がんばって書いてみようと思います。
[例その39]
登場人物は一人の人です。ここに書かれる人の名は一切ありませんが、全て
実在の人です。だから誰もがわかっていても特定はしません、とお許しをい
ただいて・・・。
その人はある日突然、やって来ました。しの降る雨の如くではなく豪雨の如
くやってきました。
「仕事大変なんやって・・・、毎日毎日・・ちゃんとやってるがな・・・」
なかなかバリバリのガンバリが見えます。
その人朝な夕な来られるのです。来てはカウンタ−でダベって行くのが楽し
みとなっていました。
いろいろの都合で、彼に車の運転をお願いしたことが事の発端でした。
その最後の段階でいろいろな意味を込めて「お礼」をお包みいたしました。
急に彼は顔色を変えて言いました。
「そんなもん・・・いらん」
「でも・・・」
「俺がどんなこと思って、こんな事を引き受けたのかわかっていないんや、
俺がどんなに思っているか・・・わかっていない」
「これ、受け取っていてください」
だれも居ない車のなかで、ちょっと険悪は雰囲気が漂いました。
彼も少し語気が強くなってきています。私は良かれと思ってやった事。
(これは困った!もう次ぎの機会には他の人の頼もう)
車を降りて部屋の中に入れば、全くいつもと変わりありません。大人の世界
では通常よくある景色です。そんなに怒られても私にはもう、打てる手立て
はありません。それにそんなに語気を強めることもないのに・・・。
今もって、彼のその真意がよく私にはわかっていないのです。
それだけで済めばよかったのですが、どうしても万事休す。どうしても彼に
頼まなければいけないような羽目になりました。私は八方手を尽くして運転
が出きる手立てを探しました。私には私の面子がある、筋を通す。
彼が来て
「今、困っているとちゃうん?。何で私に頼みにこんのや?」
「いや、困ってます。出きればお願いしたい」
「いいよ」
本当に二つ返事でした。頭の中にはお礼の出し方とかいろいろが輻輳したも
のの、当面の問題は解決しました。さしあたりの問題も、今度は差し出がま
しく、事前のプッシュをして事も順調に終わりました。
でも以前の「俺がどんなに思っているかわかってない」の言葉が奥歯に挟ま
ってなんとなく気持ち悪いままでした。
(クソッ!もう止めたる!)と何度思ったことか、日曜祭日休みなしで働い
てもういい加減にしてとは思ったものの、あの人、この人の顔が浮かんでく
る。唇をかみ締め直しジッと我慢する。
こんなにツライ思いするのなら、もう金儲けだけに専念した方が本当はズ〜
と楽なのに、私にはできない。
「そんな事、ないですよ」
私の反論する答えはこれだけです。本当にこれが私の全てでした。
「いや、わかってない」
彼は口を一文字にキュ−と結んで再度、念を押すように私に向かって断言し
ました。
あまりにも数多くのオ−ナ−が経営という隠れ蓑を着けて、社会というもの
を無視し、我のための経営をした結果なのでしょう。残念です。
呑みに来て、ほんの少しの時間でした。お手拭で手を拭きながら、それが彼
と私の話しの全てでした。かなり話しは緊迫はしたものの、お互いに話しの
内容が平行線をたどっていて、接近しない事がわかりました。
お互いによく飲みました。お酒にビ−ル。彼とほぼ同じ年齢だったこともあ
って気心は知れていました。
私にとっては近くの駅前を二人で肩を組みながら、大きな声をだして酔っ払
って歩いたのは、あの時しかなかったと今だに思っています。
「それにしても、よく呑みますネ。それにあまり酔っていないし・・・」
「全然、酔わない」
「私は、酔っていますよ。ほら自分の影が揺れてる」
「酒はたくさん呑んでも。平気・・・」
本当に酒には滅法強いようでした。私も毎日呑んでますが、一度に大量に浴
びれば、正体もなくなれば、だらしなくもなる。
私は若い頃から、本当に自分が酔っているのかどうかのテストのために、酒
を打ちくろう!時は一度直立不動の姿勢をして、その影を判断材料にしてい
ました。もっとも、ひどい時はこの電信柱からあの自転車めがけて・・・と
いう時も若い頃ありました。
今日は久々の自分としては中の下、程度の酔いでした。
「少しおかしいな」と思ったのはこの時でした。
その後もよくやって来ました。よくカウンタ−の傍に居てなんや、かやと話
しをしていくのです。
そらから少しして、ある日のことでした。
「近頃、便所に行くと黒いウンチが出る」
「えぇ、それって黒便って、血液が混ざった便なんですよ」
「・・・・」
「明日もう一度確かめて見て下さい。水の中に落ちたら、ホワッ〜と回りに
赤い色が出るから・・・」
「それじゃ、明日また来るわ、どうだったか教えるから・・・」
・・・・・・・・・・・・・
翌日
「やっぱり、言った通り、赤いのがホワッ〜とでるわ・・」
私は事の重大さを感じました。黒便は大腸上部の消化器官の損傷・出血を意
味します。特に胃部の危険性はこの前のアルコ−ルの吸収との関連で特に疑
いが高い。無痛の症状から見て胃がんの可能性はすこぶる高いと判断しまし
た。
「私じゃ、どうしょうもないから、とりあえず医者に早く行ってください。
今、最優先にやった方がいい。早ければ早いほどいい」
「そんなに言うんだったら、行ってみるか」
そらから二、三日たって、
「行ってきたけど、再検査だって・・・」
それからしばらくして、
「胃潰瘍なんで、手術をしなければいけない。いつでもいいといわれている
んだけれど、仕事が忙しく段取りがつかない」
「手術が決まっていたんだったら、出きるだけ早い方がいい」と伝えました。
しばらく来ないなと思っていたら、電話で伝言が入りました。無事手術は終
わり現在入院加療中、病院名を教えてくれました。
早速、ここのメ−クさんと二人でお見舞いに行く事にしました。この次ぎ電
話が来たら、女装名じゃない本名とこちらがどういう関係の人がお見舞いに
行くのか、話しのつじつまを合わせておかなければいけません。
私も昔、簡単な虫垂炎で手術を受けたことがありますので、あの間の暇な時
間と人待ちのあの空間はよくわかっていたつもりですので、早めにお伺いす
る事にしました。
いつもは女装名で言っていましたので、くれぐれも女装名を口に出さない事
は大変なことで、そういう時は神経がピリピリします。
私はスポ−ツ店のオ−ナ−でメ−クさんはその従業員ということで、その大
病院に乗り込みました。
ちょうど車で入りますと、守衛さんが病院の受付をしています。どうも裏手
からは入ったようでした。その守衛さんに間違えないように「本名」をいい
ますとファイルをめくりながら、親切に対応してくれました。三階の部屋号
数を聞いて行きました。
どこの病院もヒタヒタと歩く音だけ、ちょっと暗い光った廊下の所々に光が
さし込んで・・・。あぁ病院そのもの・・・。
部屋号数を確認して、名札を見たらホッとしました。その部屋角を回り込む
と、入ってすぐ左二番目のベットに確認できました。
暗い所から急に明るい部屋の中に、彼とそこにもう一人の女性が腰掛けてい
ました。まぎれもない彼の奥さんだったのです。
「こんにちわ・・・。どうですか具合は・・・?」
「うちの家内です・・」
「あっ、そうでしたか、いつもお世話になっています」
話しはそこそこに、彼はこう言いました。
「胃・全摘出なんだって・・・」
話題を先に大きく変えてしまいました。私は奥さんに話しをどうしたらいい
のか苦慮していた矢先、その話題に飛びつきました。
「胃を取ってしまったにしては、結構血色もいいし、体重もあまり減ってい
るようにお見受けしませんが」
彼はベットの上であぐらをかいて、答えました。
「大変なんや、胃が無くなるって事は、ホント、食べられへん」
「少しづつ、小分けにして食べるって事ですか?」
そばに居る奥さんは黙って、聞いている。いつもの彼の現実と今の彼の現実
の前に、私は今、本当に小さくなっている。ああ神様、私を許してください。
「そうなんや、今、飴なめてんや」
「それじゃ、退院はもうすぐですね」
「まだ決まってないけどネ」
しばらく話題らしい話題もなく話しをしました。彼の奥さんとはほとんど話
しらしい話しをせずに終わりました。
「それじゃ、これで失礼します」
「そうですか、それじゃ・・・」
彼は彼の奥さんに目配せして、「私が見送りするから・・・」と言葉にせず
に伝えています。彼女はそのベットから離れて彼を支えています。軽く手を
振り払い、一人で行こうとしています。
「いや、ちゃんと来た道迷わずに帰れると思うので・・」
と冗談を挟んで押しとどめましたが、彼はついてきました。
階段の手がかりに電話が置いてありました。そこまでゆっくりと歩きながら
私も「ホッ」して、人のいないのを確認しながら女装名で話しかけました。
話しの内容はたわいのない事で覚えておりません。
外に出ると思っていたよりも、暗い雲が天に貼り付いていました。
「なぁんだ!雲っていたのか」
病院の中から見れば外は希望の光が差していた、幻だったのか?
それから約半年、あれほど頻繁に来ていた彼の足跡はピタリと止ったままで
した。
ある日のこと、それは突然やって来ました。
「やぁ、久しぶり。復活しました」
彼の懐かしい声を聞きました。
「もう、会社にも行ってるんやけど、食事が大変で、弁当持参なんや」
それこそ、それはそれは可愛らしい幼稚園児が使うような弁当箱を携帯して
いる。
「食べるということは大変な事なんやな、口は食べたくても、身が許さない
ってことはよくわかった。つい食べ過ぎると戻してしまう。それが辛い」
私なんか、食べ過ぎで戻したことなんてない。食事は全て消化するもんだと
思っている。がしかし・・・。
若干は一回り小さくはなったものの、相変わらずの毒舌は懐かしい。
以前のようなバリバリ感はなくなったものの「私がここをどう思っているか
わかっていない」と言ったことを地で行っています。
「奥さん、お会いしましたが大丈夫でしたか?」
「全く、大丈夫・・・」
「しっかりした、奥さんですね」
言葉少なの、筋金入りの強さはそれだけのことではなかった。よくよく聞い
てみると、入院中はほとんどその病室にいたらしい。子供もいる家庭でそれ
だけ普通はいられるはずがない。
奥さんが傾ける力のほとんど全てがかかってきている。それが彼にも言わな
いでもわかっている。事の重大さが本当は彼にもわかっているのです。
それから約半年・・・またもその足音は止りました。転移・・・?。
あの雲っていた空が本当に晴れることを望んでいます。
またもや入院の情報が入りました。その情報の中にいたましい話しも一緒に
入ってきました。
「本人はこんなこと言ってました『今度はもしかしてダメらしい。今は車椅
子の生活をしていて、奥さんが無理やり車に乗せて六甲山にドレイブに連れ
て行ってくれたりしてる』と伝えてください」と電話を取ったスタッフの伝
言でした。電話をする事さえも大変な状態になってきているらしい。
そうそう、送ってくれた電話があるところまでもが・・・。
もし、次ぎ連絡が入ったら、またお見舞いにお伺いしたいからとそのスタッ
フの伝言しておきました。
ある日、その伝言の答えが帰ってきました「もう、電話もままならない。頭
も剃って前の見る影もないので、会いたくない・・・」
それが私と彼の意思が通じた最後の交信でした・・・・・・・無念。
それから約二年。それは突然やってきました。ある年の十月初旬の頃、たま
たま彼の関係する会社の取引関係にある彼の親友から、彼が死んだと言う情
報が入ってきました。葬儀にも参列したし、間違いない。
若干、五十路を急ぎ過ぎ。妻も子もありこの花道もあり「本当にわかってい
ない」とあなたはおっしゃるのなら、私に生きて伝えて・・・・・。
今でもいいから、私に伝えて・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
私は思いました。誰にも言わずに私のあなたへのたむけの遺品を作ろう・・・
あなたがこれほど通いつめたその入り口を・・・・。
そうして「定期券」が誕生したのです。
今、このあなたの生きた血と肉の証とほんのわずかばかりの私の努力で、あ
なたのその精神を受ける子供達が今もやって来ています。
よくこれを書けたと思っています。ここ数日、ほとんど寝ずにあまり文章も
読み返さずに一気に書いてしまいました。もう途中で止めると書けなくなる
のはわかっていました。読み返すと胸がつまるのです。
これは本来、私の胸下にたたみ込む性質のものであると思っています。だか
ら『定期券』の理由立も誰にも説明はこんな仕方ではいたしません。ただ誰
もが「わかっていない」と言った、その一言のその多分一部であるだろうそ
の恩恵を、今まで沢山の人々が享受した事は間違いないのです。
今もここには気軽にやってきて、のんびり女装もせず。ラ−メンなどの出前
をたのんで、昼寝を楽しんでリラックス三昧して帰る方もいます。そのヌク
ヌクの温かさはあなたの考えていたことなんでしょうか。
私はまだ「本当にわかっていない」と、今も心の中に受け留めています。

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